退職と社員寮


2025年05月02日弁護士コラム

こんにちは。弁護士の俵です。

私のお客さんは外国出身の方が多く、勤務先の社員寮に住んでいる方もいらっしゃいます。会社を退職するにあたり、社員寮から今すぐ出ていくように言われて困っているというご相談を受ける事も時々あります。逆に、会社の方から、従業員が退職したらいつまでに出て行ってもらうべきなのかとお問い合わせをいただくこともあります。

 

〇賃貸借契約かそうでないか

議論の出発点は、従業員が会社からどのような契約に基づいて当該建物を使わせてもらっているかです。事案にもよりますが、裁判所は、

・賃貸借契約と判断したこともあれば(最高裁判例昭和31年11月16日)

・賃貸借契約とは異なる特殊な契約関係(「社宅を使用することができるのは従業員たる身分を保有する期間に限られる趣旨の特殊の契約関係」)であると判断したこともあります(最高裁判例昭和29年11月26日)。

判断の一応の目安は、社宅の料金が家賃と同じくらいであるとの事情があれば賃貸借契約の方向に傾きやすく、他方、社宅の料金がとても低く設定されていれば賃貸借契約ではない方向に傾きやすいといえそうです。

賃貸借契約と判断されれば借地借家法の適用があり、退職したとしても住んでいる人はそれなりに手厚く保護されることになると考えられます。

他方、賃貸借契約ではないと判断される場合、社員寮に住める期間は、基本的には従業員としての身分を有する間に限られると考えられます(もちろん、この場面を想定した契約書や規程があればそこで合意された内容に拘束されると考えられます。)。

なお、無効の疑いがある解雇をされた場合や騙されて退職届を書かされた場合はどうなのかという話になりますが、その場合は従業員としての身分を失っていないと考える余地があり、引き続き社員寮に住めるとの考え方も成り立ちそうです。

 

〇法律相談のすすめ

いずれにせよ、個別具体的な事実関係や資料(契約書や社内規程)に基づいて判断する必要があるため、労働者の方も会社の方も、お困りの方は弁護士のところにご相談にいらっしゃることが望ましいです。

 

〇契約書・規程作成のすすめ

また、こちらは会社の方向けのメッセージですが、将来的な紛争の発生を予防すべく、契約書や社内規程で、退職した場合にはいつまでにどのような手順で退去をするかを規定していただくことが望ましいと考えております。