法律は人を救うためのもの


2025年11月20日弁護士 横山 友子

私が、東京パブリックに入所して間もない新人の頃に、忘れられない事件を担当しました。

 

当時30代の男性が新聞配達の仕事で生活していました。年の瀬でした。事務所で話を聞くと、住んでいたマンションを追い出された、と。自分が母親から相続して住んでいたマンションを、知人に「お金を増やしてやる」等と言われて、不動産屋に売却し、知人が返済して不動産を買い戻す約束だったのに、理由をつけて返済をせずに、不動産屋から勝手に鍵を付け替えられ、荷物を処分された、と。

 

当時弁護士になって2週間ほどだった私は、先輩弁護士と一緒に準備し、年明けに不動産の転売を防ぐ仮処分を申し立て、売買契約の錯誤無効等を理由として、不動産を取り戻す訴訟を提起しました。

 

訴訟には時間がかかります。依頼者は当初ネットカフェに寝泊まりしていましたが、長く続くはずもありません。生活保護の申請に同行し、保護を受給し始めて居場所ができた彼は、打ち合わせに来る度に、早く家を返してほしい、と訴えていました。

 

訴訟には1年ほどかかりましたが、最終的に、依頼者は、マンションを取り戻すことができました。生活保護も抜けて、自分の収入で、母親の思い出の詰まったマンションで生活しています。

 

もし、年の瀬を理由に弁護士が相談を断っていたら、彼は、露頭に迷っていたかも知れません。あるいは、彼は、司法に絶望して、適法に不動産を取り戻す方法は諦めていたかも知れません。そして、弁護士に生活保護の申請の知識が無ければ、彼が、1年以上の訴訟を戦う生活基盤を得られず、やはり、途中で諦めてしまったかも知れません。

 

法律は、人を救うためのものです。目の前の困っている人を助けたい、という優しさ、正義感、法的知識を武器に戦う強さ、そういったものが、弁護士には求められていると思っています。

 

(依頼者のご承諾を得て掲載しております。)

 

弁護士 横山友子